SUBARU、完成検査時の燃費・排出ガス測定の異常値発見で再調査へ


この再調査を受けて、現・吉永社長は来る6月22日付けで代表権の返上へ

株式会社SUBARU(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:吉永泰之)は6月5日、同社群馬製作所の本工場及び矢島工場内で、過去の完成検査工程で判明した「燃費・排出ガスの抜き取り検査の測定値」について、自社内で再調査を行った結果、説明のつかない異常値が発見されたため直ちに再調査を実施する。またこれに合わせ同日午後、同件に関わる記者会見を実施した。

上記の再調査は先の燃費・排出ガスの抜き取り検査に際し、その測定値を書き換えるという不正行為が長年に亘って行われてきたことが、昨秋以降の社内調査によって判明したことに端を発するもの。

この経緯で、去る2018年4月27日に国土交通省へ最新の報告書を提出し、同調査結果を公表した。

しかしその燃費・排出ガスの抜き取り検査に関し、引き続き不適切な測定手続が行われていたことが社内調査で新たに判明したため、さらに同社が把握している以下の内容を国交省へ報告した。

(1)JC08モードで定められた運転方法により燃費・排出ガス測定試験を行う際、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等に規定されている速度からの逸脱時間が、同細目告示等で許容されている範囲を超えた運転(トレースエラー)となっているにも関わらず有効な測定として処理した事案が存在する。

(2)燃費・排出ガス測定時には、試験室内の湿度が30~75%までの範囲でなければならないと細目告示等に定められていた。しかし試験室内の湿度が上記範囲外の測定環境(湿度エラー)であったにも関わらず有効な測定として処理した事案が存在する。

従業員が一丸で、真に「正しい会社」に生まれ変わっていく決意を改めて示す

これについてSUBARUでは、「先般、燃費・排出ガス測定に関し、社内調査を実施し、国交省へ報告書を提出したにも関わらず、上記の問題を把握するに至らなかったことは極めて遺憾であり、重く受け止めております。

上記の問題について現時点では、行為の実態、その原因や背景、動機等について、十分に究明するには至っておりませんが、社外専門家の手で、上記の問題のみならず完成検査業務全体のプロセスについて早急に徹底した再調査の実施を予定しています。

また上記の問題について、本日(6月5日時点)、国交省より、事実関係の調査を行い報告すること等の指示を受けております。

この問題に関する調査の結果を踏まえ、完成検査業務に関する一連の問題の再発防止策についても、経営トップ自らが陣頭指揮を執り、従来の延長線上の対策のみならず、組織体制や設備などに踏み込んで、抜本的に見直します。

当社としては、強い危機感の下、全役員および従業員が一丸となり、二度とこのような事態を引き起こすことのない、真に「正しい会社」に生まれ変わっていく決意です。

お客様、関係者をはじめとする当社を取り巻くステークホルダーの皆様に、多大なご心配・ご迷惑をおかけすることを、改めて心よりお詫びいたします」と述べている。

また実施された会見の壇上に於いて、かねてより6月22日付けで、代表取締役会長職に就くとしていた吉永氏は、今事案を受けて代表権を返上。代表権のない「取締役会長」になる旨が公表された。これに併せて、大河原正喜氏が「代表取締役専務執行役員」となる見込みであるとした。

再発する不手際。モノ造りの現場で、エラーの黙認がまかり通っているという異常事態を究明しなければならない

今会見についてのより具体的な内容は、同社生産工場内に置かれた測定端末のハードディスク等に保存されていた平成24年12月以降の6,530台(当該期間に於ける月次報告書上の測定台数は6,939台)分の測定データを今回改めて精査した。

その結果、JC08モードで定められた運転方法により燃費・排出ガス測定試験を行う際、道路運送車両の保安基準の細目を定める告知等に規定されている速度から、逸脱時間が許容されている範囲を超えた運転となったにも関わらず、これが有効な測定値となっていた事案が903台存在することを確認したとしている。

なお、同社ではこれらのうち、逸脱時間のデータが書き換えられていた台数については、現在、精査中としている。

また上記測定データを改めて精査した結果、燃費・排出ガス測定時には試験室内の湿度が30から75%の範囲でならなければならないとする規定に対して、湿度の環境がエラーであった事案が31台分(そのうち、上記との重複事案が7台分)存在していることが判明した。しかも、このようなエラー発生時の場合、検査の現場でエラーの警報が鳴り響く中で不正が行われていた。

午後5時より開かれた会見場に於いて吉永社長は、「昨年の完成検査員問題の発覚以降、問題の背景に当社の企業体質に関わる根深い問題があることを強く認識し、企業体質の改革に取り組んで参りました。

それにもかかわらず、国交省の調査を契機として、改めて過去に行われていた不適切事案が判明したことは誠に遺憾であり、お客様、お取引先様、その他の関係者をはじめ、当社を取り巻くすべてのステークホルダーの皆様に、さらにご心配をおかけすることについて、心よりお詫びいたします。

今事案の発生について、『行為の実態』、その他の『原因や背景』、『動機』等について充分に究明する段階に至っておらず、個人的には、来る6月に経営体制を刷新した後の新たな中期経営計画の発表についても、今後、影響を与えるだろうと考えています。

このような現状は、私としては心から無念な気持ちでありますが、再度、調査の陣容を強化して、抜本的な再発防止策の見直しを行い、これまでの企業体質の変革を目指し、企業風土を刷新することについて、より強く進めて参ります」と語っていた。

事態は膠着状態で、国土交通省・自動車局長より異例の声明も。ブランドの毀損も考えなければならない局面へ

対して同件に関し、監督官庁にあたる国土交通省自動車局長の奥田哲也氏が異例の声名を出している。

これによると、「昨年12月22日及び本年2月1日付けで、燃費・排出ガス検査の測定結果の書き換え事案に関し、詳細に調査し報告するよう指示し、本年4月27日付け『完成検査における不適切な取り扱いへの対応について』についてのご報告により、SUBARUから燃費・排出ガス検査に係る不正な書き換え事案についての報告を受けたところであるが、その後に行った立入検査の結果の精査の過程で、(1)運転が測定モードに合わせられず失敗(トレースエラー)した測定及び、(2)測定室内の湿度が範囲外であった測定(湿度エラー)に対し、書き換えを行う等により有効な測定として処理した事案が判明したところである。

このことは、貴社における不適切完成検査事案の全容解明に対する取り組み姿勢に疑問を抱かざるを得ず、極めて遺憾である。

ついては、万全の調査態勢を構築した上で、新規判明の二事案に関し徹底調査するとともに、他に完成検査に係る不適切事案が無いかどうかについて徹底調査し、その結果に基づき再発防止を策定の上、一ヶ月を目途に報告するよう求める。

なお、本報告要請は、道路運送車両法第63条の4第1項、第75条の6第1項及び第100条第1項の規定に基づくものであり、報告の内容によっては、新たな措置を講じることがあることを申し添える」とコメントした。

この6月5日の会見に出席した筆者の感覚では、仕事の取り組む際の「核」になると思われる「企業哲学」について、社内経営陣と現場との間で、共通言語を介した意思疎通できない程の大きな認識の乖離が発生しているように見える。

航空機製造会社としてスタートしたSUBARUの企業風土は、事業経営のなかで弱みでもあり、またはそれが強みでもある

実際問題として自動車に限らず、組立などの最末端のモノ造りの現場に於いて、いわゆる製造工場の「班長」以下のグループと、係長クラスの間に於いて、相互の意思疎通が直結しないという状況自体はどの企業でも起こるだろう。

しかし一方で日本の自動車市場は、既に車両への投入技術が大きく成熟した今、個々車両の性能優劣で競合他社との差別化が難しくなっている。従って、もはや車両選択もブランド価値という「見た目では見えない価値」で「勝負が決まる」と言っても良い時代だ。

それゆえに経営から車両企画・設計・開発・製造に至るモノ造り全域を通して、働く従業員の一貫した「こころざし」が商品性の優劣を決めてしまう。

そう考えると、今のSUBARUは「モノ造り企業」として、今後の行く末を左右する程の難しい局面を迎えているように思われてならない。

その真の理由はまだ見えておらず、それは長年技術畑の人材が企業のトップを務めてきた同社に於いて、初の営業畑出身の吉永氏がトップについたことによるものなのか。

またここ7年間、現体制を支え続けて来た経営陣達の采配によるものなのか。さらには事業の大幅な伸張を実現させたストレスが、最終の車両製造の現場に押し寄せたものであるのか。または、それ以外の理由によるものかは定かになっていない。

ここで過去を翻(ひるが)えれば、吉永社長は昨夏、東京ミッドタウンで行われた『Advertising Week Asia 2017(アドバタイジング・ウィーク・アジア2017)』の基調講演に登壇し、筆者はSUBARU伸張の理由を求めて同講演を聞いた。

この際、吉永社長は「今や自動車産業全体が来たるべき2020年に向けて世界市場1億台を、具体的な通過点として据えている中、SUBARUのシェアは、その全体に於ける1%に過ぎないのです」と語り、「我々SUBARUは2010年以降、ビジネス市場で好調さを取り沙汰されてきましたが、社内では目指すべき未来に向けて、今後どうやって生き抜いていけば良いのか、永らく悩んできました」と話した。

そして世界の自動車ビジネス全体が、東アジア市場の拡大に向けて一斉に走り始めるなか、「SUBARUは、そんな流れを常識的なことだとは捉えていません。

世界販売1億台規模を目前に、激しいシェア争いを繰り広げる大手自動車メーカーに対して、我々は独自の視点を持たなければなりません。それは車両販売のボリュームが最終的に勝敗を決するような土俵で、SUBARUは勝負すべきではないということです」と畳み掛けた。

それこそが吉永社長自身が云う量産自動車メーカーの規模で末席にあたるSUBARUのオンリーワン戦略を読み解く鍵であり、これが米国を筆頭とする自動車市場に於いて、SUBARUが評価されている『真の理由』であると。

そのひとつは、『SUBARUが航空機会社としてスタートを切っている』こと。ふたつめは『そのために非常に技術オリエンテッドな会社になっている』こと。つまりは『常に良いモノを作りたい』と考えてしまう高コスト体質であるのだと云う。

そしてこのSUBARUの弱点を裏返せば最大の長所になる。それこそが、SUBARUが生き残る鍵になるのだと。

つまり徹底した技術主導的な企業風土ゆえに、『開発・製造コストが勝敗を分ける戦いで、競合他社に勝つ事は難しい』という結論に行き着いたというのである。

そこで2011年に、代表取締役社長に就任したばかりの吉永氏は、全社員の完全雇用を維持しつつも、同社の自動車産業としての礎となった軽自動車市場からの撤退を決めたのだ。

車格や車両価格などを度外視して、すべてのSUBARU車が安全面で最高評価であることは、ごくあたりまえのことだった

また今やSUBARUの金字塔となっている安全技術『アイサイト』は、同社拠点がある群馬の開発拠点で、延べ20年間も続けられてきた基礎研究がその源流になっている。

その基礎研究について吉永社長は、ある日、まだ自身が『アイサイト』実用化にゴーサインすら出していなかった頃に、そんな群馬の開発拠点で黙々と、いつ実るか判らないアイサイトの基礎研究を黙々と続ける技術陣に対して、とある質問をした。

それは「今、生涯掛けて取り組まれている今の開発テーマは、いつ報われるか判らない。そんな中で皆さんは、この研究開発に対して、何をモチベーションに取り組んでいるのですか」と、あえてその『答え』を訪ねたのだと云う。

そして、そこで得た答えこそが、SUBARUの現在の立ち位置につながっており、ひいては、その結果が米国の自動車安全基準である「Top Safety Pick(当地の自動車安全基準の最高評価)」の全車種獲得につながっているとした。

実はこの時、彼らは、以下ような趣旨のことを語ったのだと云う。「SUBARUの技術陣にとしては、特定のSUBARU車だけが最高評価を受けること自体が異常なことです。

自分たちが開発して世に送り出すクルマは、車格や車両価格などを一切問わず、どのクルマであっても、全車が最高評価であることが、ごくあたりまえの事なのです。

我々はクルマの安全性に対して、こうしたあたりまえの努力をしているのであり、これについては一切妥協したくありません」と。昨夏の壇上で吉永社長は、この技術者からの回答を終盤で披露してスピーチを結んでいた。

そんな吉永氏の語りかけは、なんらかのモノ造りメーカーの経営者であれば誰もが感激し、羨むばかりの自社従業員達の熱く・静かな「こころざし」であった。

しかしそれは、本当に車両製造の最終段階の現場にまで確実に浸透していたのか、いや浸透していたのにも関わらず、わずか数年の間に、何かが、そうした高い達成目標を瓦解させてしまったのだろうか。

筆者は、昨夏、吉永社長から訊いたSUBARUの強みや企業哲学は、まだまだモノ造りの現場に息づいていると信じているし、プレミアムメーカーを切り拓く道もまだ半ばだ。SUBARUには、混迷にある現状を抜け出し、もう一度、強固なブランド価値を打ち立てて欲しいと切に願っている。(会見取材を経て、記事内容を刷新しました。Tuvichomsao   坂上 賢治)

同社より公表された測定値等のデータは以下の通り(*クリックまたはタップで表示拡大します)