トヨタ自動車、高性能モーター用希土類元素「ネオジム」削減技術を世界初実現へ

Tweet
このエントリーをはてなブックマークに追加

トヨタ自動車株式会社(本社 : 愛知県豊田市、代表取締役社長 : 豊田章男、以下トヨタ)は2月20日、東京都内に於いて日本から生まれた高性能モーターの代名詞であるネオジム(磁石)モーターから、希土類元素である「ネオジム系素材」を大幅削減できる技術を、自ら運営する傘下のラボを介して独自開発したと発表した。

赤いラインが省ネオジム磁石の磁力性能。保持力と温度環境下に於ける性能は、双方の値の組み合わせを選ぶことで遜色のない性能が発揮できる様子が見て取れる。

このネオジムモーターの重要部品として使われるネオジム磁石は、鉄とホウ素に希土類元素のネオジム(Tbことテルビウムや、Dyことディスプロシウム)を混ぜ込んで造られた磁石である。

かつて住友特殊金属時代の佐川眞人氏(工学博士・現、インターメタリックス最高技術顧問並びに大同特殊鋼顧問)が1980年代に世界で初めて発明し、以来、今日に於いても「世界最強の磁石」と云われ、モーター動力の歴史上で最も重要なモーター素材だと謳われている。

その特徴は、既存の磁石とは一線を画する超強力な磁力を持っていることにある。一方、それだけ優れた特性を持ちながらも形状加工が容易で強度に優れている。また熱の影響も受け難い。このことから「ネオジム素材」は磁力を必要とする様々な動力系製品を飛躍的に小型・高性能化させた立役者である。

今回、トヨタが開発に成功したと発表した「省ネオジム耐熱磁石」は、ネオジムモーターの構成技術はそのままに、磁石単体の構成素材の中身を従来型の磁石に比べ、10分の1以下にまで粒度を微細化した事がポイントだ。これが同技術的成功の足掛かりとなった。

と云うのは、希土類元素のネオジム素材(要素)をモーター用の磁石部品から単純に減らしてしまうと、モーターそのものの性能が大幅に低下するからだ。あくまでも高性能なモーターを成り立たせているのは「ネオジム」ありきなのだ。

そこでまずトヨタは磁石の粒度を5μmから0.25μmにまで微細化した。ここでポイントとなるのは、個々の微細化した粒ひとつひとつをさらに加工したところにある。

さらに個々微粒子の外側をネオジム構成量の多い濃度のネオジム素材で、いわばコーティングような格好だ。

つまり個々の微粒子の内部は、比較的ネオジム成分が薄めのものとしているが、その代わりに、この粒の回りに濃いネオジムを含んだ構成部材でコーティングしたかたちである。

これにより、個々の粒子毎にネオジムの含有量が少なくても、外側を包み込んだ濃いネオジム層が強力な磁力を派生させ、相対的にネオジムの構成量を全体の半分にした場合も、旧来型のネオジムモーターに匹敵する動力性能を発揮できるようになったのだと云う。

庄司哲也グループ長

今回、発表の壇上に立った先端材料技術部グループ長・庄司哲也氏は、同技術が今後、電気自動車の大幅な急増により、高性能モーターに求められるネオジム磁石のネオジム成分を削減していく時の助けになると述べていた。

また発揮できる性能は、既に充分満足した数値になっているとしており、例え高温環境下でも満足できる性能を確保したとする。

ちなみに磁石構成素材でも最も希なレアメタル(希少金属)であるテルビウム(Tb)とディスプロシウム(Dy)を削減した代わりに、同じレアアースの中でも安価かつ豊富な埋蔵量を誇るランタン(La)とセリウム(Ce)に置き換えている。

耐熱性能の保持には欠かせなかったディスプロシウムを使用せずに開発に至ったこの「省ネオジム耐熱磁石」は2018年1月現在、トヨタ調べで世界初であるとしている。

レアアースの中でも比較的産出量が多い素材に置き換えた省ネオジム磁石は、今後のハイブリッド車や電気自動車などの電動車の普及を前にトヨタ製の自動車や、ロボットなどのモーターが必要とされるプロダクトだけに留まらず、様々な用途のモーターとして利用環境先を拡大していくと云う。

なお開発した技術は、先の通り内製化でここまで漕ぎ着けたが、今後はこの独自開発技術を提供して、新型ネオジム磁石を製造してくる企業とコラボレーション化を図っていくとしている。

以上のおさらいとなるが、今「省ネオジム耐熱磁石」の主な特徴は以下の通り

  • 磁石を構成する粒の微細化したこと。
  • 粒の表面を高特性にした二層構造化したこと。
  • ランタンとセリウムで既存の配合比を置き換えたこと。

開発ポイント1. 磁石を構成する粒の微細化
磁石を構成する粒を、従来のネオジム磁石の1/10以下にまで微細にして、粒と粒の間の仕切りの面積を大きくすることで高温でも保磁力を高く保つことができるようになった。

省ネオジム磁石の保持力を表すための展示

開発ポイント2. 粒の表面を高特性にした二層構造化
従来のネオジム磁石は、ネオジムが磁石の粒の中にほぼ均等に存在しており、多くの場合、磁力維持に必要な量以上のネオジムが使用されている。
そこで、保磁力を高めるために必要な部分である磁石の粒の表面のネオジム濃度を高くすると共に、内部を薄くした二層構造化により、効率良くネオジムを活用することができる。これによって使用量の削減を可能とした。

開発ポイント3. ランタンとセリウムの特定の配合比
ネオジムにランタン・セリウムなどの軽希土類を単純に混ぜると、磁石の特性(耐熱性・磁力)が大きく低下するため、軽希土類の活用は難しいとされてきた。
これを解決するためにトヨタは、産出量が豊富で安価なランタンとセリウムを様々な配合比で評価した結果、特定の比率で混ぜると特性悪化を抑制できることを見出した。

加藤晃技範

最後に今回の研究・開発は、新エネルギー・総合技術開発機構(NEDO)が推進する「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」の一環としてトヨタが実施したもの。

今後はレアアースの需給バランス・価格向上などのリスク低減にも寄与。自動車では、電動パワーステアリングなどのモーター分野で2020年代前半での実用化を目指す。また要求性能が高い電動車の駆動用モーターでは、今後10年内での実用化を目指して開発に取り組んでいくと結んでいた。